コンプライアンス違反の事例から見るリスクと5つの防止策
※2024年10月18日更新
企業の社会的評価・信頼を得るには、コンプライアンス強化を図ることが欠かせません。
企業に対して遵守が求められるコンプライアンスにはさまざまな種類があります。それらの内容について正しく理解したうえで防止策を講じることが重要です。
シフト管理担当者や労務担当者のなかには、「コンプライアンス違反の事例を知りたい」「コンプライアンス違反を回避するにはどうすればよいのか」などとお考えの方もいるのではないでしょうか。
この記事では、コンプライアンスの概要や、企業におけるコンプライアンス違反の事例と5つの防止策について解説します。
コンプライアンスとは
コンプライアンスとは、日本語で“法令遵守”を意味します。ビジネスにおいては、企業が法令に従いつつ、利潤を追求していくことを指します。
現在広く使われるコンプライアンスという言葉は、法令遵守はもちろん、社内規定や企業倫理、さらには社会倫理といった法律の枠を超えた意味も持つようになっています。
コンプライアンス違反の事例とそのリスク
コンプライアンスに違反してしまうと、関係者からの信用だけでなく、社会的な信用も失われるおそれがあります。特に、コンプライアンスという概念が浸透した現代では、違反による問題がマスメディア・SNSで拡散されるリスクもあります。
ここでは、企業におけるコンプライアンス違反の事例を5つ取り上げます。
①社内・顧客情報の漏えい
コンプライアンス違反として代表的なのが、個人情報の漏えいです。
個人情報が漏えいする原因は、盗難やハッキングといった外部からの攻撃だけとは限りません。従業員による書類の持ち出し、USBメモリへのコピーなどによって内部から漏えいするケースも見られます。
▼個人情報を記録したUSBメモリを紛失した事例
教員が出張先で業務を行うためUSBメモリを利用しデータを持ち出し、出張から帰宅後紛失が判明。43人の氏名、学籍番号等が保存されていた。暗号化や、パスワード設定の処置はされていなかった。同学では個人情報の学外への持ち出しを制限しているが当該教員は保護管理者の許可を得ずにファイルを持ち出した。
引用元:内閣サイバーセキュリティセンター『サイバーセキュリティ小冊子』
従業員や顧客の個人情報が漏えいすると、刑事上の罰金刑を科せられたり、損害賠償請求が行われたりするリスクがあります。
出典:内閣サイバーセキュリティセンター『サイバーセキュリティ小冊子』
②ハラスメント
職場においては、セクシャルハラスメントやパワーハラスメント、マタニティハラスメントなど、さまざまなハラスメントが発生するケースがあります。
▼ハラスメントを行った上司に従業員が損害賠償を求めた事例
Y1社の労働者であったXが、上司であったY2からパワハラを受けたことにより精神疾患等を発症したとして、Y1社及びY2に対し、不法行為(民法709条、715条、719条)に基づき、損害の賠償を求めるとともに、Y1社がXにした休職命令及びその後の自然退職扱いは無効であるなどとして、Y1社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び自然退職後の賃金の支払を求めた。
一審は、Y1社及びY2のXに対する慰謝料70万円。控訴審においては、一審判決が変更され、慰謝料が増額(150万円)。その他の原告の請求については、一審の判決が支持され、原告の控訴が棄却。
引用元:厚生労働省『パワーハラスメントの定義について』
ハラスメントが発生した場合、被害者から損害賠償を請求されたり、裁判を起こされたりする可能性があるほか、企業の信頼性やイメージの低下につながるリスクも生じます。
出典:厚生労働省『パワーハラスメントの定義について』
③過重な長時間労働
従業員の労務管理で起こりやすいコンプライアンス違反には“長時間労働”も含まれます。従業員に過度な長時間労働を行わせたり、残業代を支払わなかったりすることで、企業が労務違反に問われるケースが見られます。
▼法令による上限を超えた長時間労働を行わせた事例
36協定の特別条項の上限時間(月100時間)を超え、違法な時間外労働を約20名の労働者に行わせ、そのうち約10名の労働者は、3か月連続で月100時間を超える違法な時間外労働を行わせていた。
引用元:厚生労働省『監督指導事例』
労務違反が発生すると、企業に罰則を科せられる可能性があるほか、従業員の離職や社会的信頼の失墜につながるリスクがあります。
なお、労働基準法で定められている労働時間についてはこちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。
出典:厚生労働省『監督指導事例』
④粉飾決算
粉飾決算とは、企業が自社の経営・財務状況を事実に反して良好に見せるために行う虚偽の決算報告のことです。
▼架空の売上を計上した事例
1.上場会社A社は製作機器の製造・販売を営んでいたが、代表取締役Xは、上場を目指していたところ、利益が必要と考え、上場以前から売上高の前倒計上を行っていた。
2.A社上場後は、Xは自社が成長企業であることを示すためには、売上高が伸びていくことが必要と考え、さらにいわゆる循環取引による架空売上高を計上していた。
3.Xはさらに循環取引による架空売上高の計上のみでは、利益が計上できなかったことから、実際に発生した原価をたな卸資産に付け替え、架空資産を計上することにより利益を計上する粉飾を行った。
引用元:金融庁『最近の粉飾の手口例』
粉飾決算が発覚した場合には損害賠償責任を負うだけでなく、刑事上の罰則や行政処分の対象となります。
出典:金融庁『最近の粉飾の手口例』
⑤著作権・商標権の侵害
自社の商品・サービスにおいて著作権や商標権を侵害してしまうことで、コンプライアンス違反となるケースが考えられます。
特定の商品について海賊版を作成するようなケースだけでなく、パッケージデザインや商品・サービス名などの類似によっても著作権・商標権の侵害となり得ます。
▼商品名が競合他社の商品名と類似した事例
人気菓子を製造・販売するA社が、B社が販売する菓子に対して、商品名が類似していることから自社の商標権を侵害しているとし、販売差し止めなどを求めた。
多額の損害賠償が請求されたが、最終的には B社が以下の対応を行うことを条件に和解が成立した。
●B社の菓子のパッケージデザインを変更する。
●販売地域を特定の地域に限定する。
引用元:特許庁『あなたが考えたその商品名、 本当に使って大丈夫ですか?』
著作権・商標権の侵害が発生すると、刑事上の罰金のほか、販売の差し止めや侵害内容に関する変更、損害賠償などを求められる可能性があります。
出典:特許庁『あなたが考えたその商品名、 本当に使って大丈夫ですか?』/文部科学省『著作権法における罰則規定の概要』
コンプライアンス違反を回避するための5つの防止策
企業のコンプライアンス違反は、法的責任の追及だけではなく、企業イメージの低下による客離れなどの影響をもたらすリスクがあります。
これらのリスクを防ぎながら、従業員が快適に働ける環境を整えるには、コンプライアンス違反を未然に防ぐための体制づくりが必要です。
①社内ルールの作成・周知
コンプライアンスを強化するためには、社内ルールを作成してすべての従業員に周知することが重要です。
企業としてコンプライアンス遵守の重要性を周知することで、社員の意識形成につながり、問題発生の抑制につながります。
また、コンプライアンス遵守の意識が社内全体に根づけば、違反が発生した場合に周囲からの相談・報告を促す効果も期待できます。問題の初期段階で対処することで、裁判に移行したり、情報が拡散されたりするリスクを軽減できる可能性もあります。
▼社内ルールを作成・周知する方法
- コンプライアンスのテーマごとに社内ルールをマニュアル化する
- コンプライアンス違反者への措置を就業規則に定める
- 被害者への相談窓口について書面で周知する
- 従業員や管理者へのアンケート・ヒアリングを通じて調査を行う など
②社内窓口の設置
コンプライアンス違反を相談・通報する窓口を社内に設けることで、コンプライアンス違反の早期発見と対応が可能になります。
なお、労働者や退職者、役員が自社の不正行為を不正の目的でなく社内や社外に通報することを公益通報と呼びます。公益通報者は『公益通報者保護法』の規定により、解雇・降格・減給などの不利益な取り扱いから保護される必要があります。
▼公益通報保護法第1条
第一条 この法律は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効及び不利益な取扱いの禁止等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置等を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。
引用元:e-Gov法令検索『公益通報者保護法』
出典:e-Gov法令検索『公益通報者保護法』/消費者庁『公益通報ハンドブック』
③社内教育の実施
従業員一人ひとりのコンプライアンスに対する意識を高めるためには、社内教育を実施することも一つの方法です。
社内教育によって企業のコンプライアンス指針や行動規範などを認識してもらうことで、従業員に適正な判断・行動を促す効果が期待できます。
コンプライアンスの違反事例を基に教育を行うことにより、第三者の目線に立って問題を捉えること、自分の行動を見直すきっかけになります。
社内研修を実施する際は、法令遵守に関する内容だけではなく、個人情報の保護や人権の尊重など、テーマごとに教育する方法が有効です。
▼社内教育の実施方法
- 入社時の研修に、eラーニングによるコンプライアンス基礎学習を取り入れる
- 社内報でコンプライアンスのテーマに関するリーフレットを配布する
- 定期的に上司・管理者向けのコンプライアンス教育を実施する
なお、コンプライアンス教育についてはこちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。
④内部監査制度の策定
内部監査とは、業務が法令に即して実施されているかを企業自らで確認して改善を図ることです。コンプライアンス違反を回避するには、内部監査制度の策定が欠かせません。
内部監査を行う際は、企業が健全で効率的な運営を行う仕組みとしての“内部統制”が機能しているかを確認することが求められます。金融庁による内部統制の定義は以下のとおりです。
▼内部統制の定義
内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。
引用元:金融庁『財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)』
なお、企業コンプライアンスと内部統制についてはこちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。
出典:金融庁『財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)』
⑤労務管理の見直し
長時間労働のような労務違反を回避するには、労務管理の見直しが必要です。
従業員の勤務時間を正確に把握するとともに、シフト作成時に違反リスクがないか確認できる体制を構築することで、労務違反の回避が期待できます。
▼労務管理の見直し例
- 法令を基に労務管理のルールを策定する
- 労務管理システムを導入する など
なお、労務コンプライアンスや企業コンプライアンスの強化についてはこちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。
まとめ
この記事では、コンプライアンス違反について以下の内容を解説しました。
- コンプライアンスの概要
- コンプライアンス違反の事例とそのリスク
- コンプライアンス違反を回避するための5つの防止策
コンプライアンスとは、日本語で法令順守を意味します。企業がコンプライアンスに違反してしまうと社会的な信用を失う可能性があります。
コンプライアンス違反を未然に防ぐには、社内のルールや制度を整備するほか、労務管理についても見直すことが重要です。
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