
企業におけるコンプライアンスの重要性と強化方法を解説
近年、コンプライアンスという概念が企業や国民にとって当たり前のこととして捉えられるようになりました。一方で、企業におけるコンプライアンス違反が問題になることもあります。
多様な雇用形態の従業員が在籍する職場や、多店舗展開で数多くの従業員を抱えている職場で、「コンプライアンス違反の具体的な例を知りたい」「コンプライアンスの強化を図りたい」と考える方もいるのではないでしょうか。
この記事では、身近なコンプライアンス違反の例とともに、企業がコンプライアンスを遵守する重要性や、コンプライアンスを強化する方法について解説します。
なお、サービス残業に関するコンプライアンス違反については、こちらの記事で解説しています。
また、コンプライアンス違反の原因や事例については、こちらをご一読ください。
コンプライアンスとは
コンプライアンスとは、法令遵守を指す言葉です。倫理・道徳・常識といった社会的規範に照らし合わせて、それに反する行動を取っていないかという意味も含まれます。
コンプライアンスの概念は以前から存在していましたが、近年は特に国民の意識が高まってきたといえます。その背景の一つに挙げられるのが、企業における不正経理や食品偽装などの不祥事の増加に伴う、コーポレートガバナンスの重要性の高まりです。
企業には、法令遵守はもちろんのこと、不正防止や商品の安全性確保、労働者への配慮といった倫理・道徳の観点からも、社会的責任を果たすことが求められています。
企業が守るコンプライアンスは、大きく3つに分けられます。
▼企業コンプライアンスの領域
①法規範 |
労働基準法や民法、刑法などの法律・条例 |
②社内規範 |
社内規定・業務マニュアル |
③倫理規範 |
職務上守らなければならない企業倫理・道徳規範 |
このように、企業コンプライアンスは法律の遵守に留まらず、社内規範や倫理規範まで広がっていることから、企業においても幅広い領域での対策が求められます。
出典:国土交通省『「コンプライアンス」について』
コンプライアンスを強化する重要性
企業におけるコンプライアンスは、法令遵守だけでなく、企業倫理や役員・従業員の行動規範にまで及んでいます。コンプライアンスに違反すると、謝罪や損害賠償請求が求められるケースもあります。
こうしたリスクを回避するためには、法令や社内の行動規範に加えて、コンプライアンスを企業の社会的責任の枠組みとして捉えることが重要です。そして、社会性・人間性を重視する新たな社会との関係構築を目指していくことが求められます。
企業が社会的責任を果たすための重要課題には、以下が挙げられます。
▼社会的責任を果たすための重要課題
- 職場におけるハラスメント
- 違法な長時間労働
- 労働者の健康・労働安全問題
- 女性の権利の侵害
- 不公平な賃金、労働条件
- 雇用・職業における差別
このような雇用・労働に関するコンプライアンスは、現場の管理体制の強化や、企業風土・体質の改善といった取組みによって回避できるケースもあります。
健全かつ安定的な経営を続けていくためにも、企業全体でコンプライアンスの強化に取組むことが欠かせません。
出典:国土交通省『「コンプライアンス」について』/経済産業省『新時代の「ビジネスと人権」のあり方に関する調査研究報告書』/厚生労働省『パワーハラスメントの定義について』
身近なコンプライアンス違反
近年、経営層による法令違反や不正行為、従業員による悪ふざけ動画のSNS投稿など、さまざまなコンプライアンス問題が発生しています。
企業に関連する身近なコンプライアンス違反には、以下があります。
- 会計や経営に関する違反(脱税、粉飾決算、横領、不正会計等)
- 従業員や企業による違反(談合、機密情報・個人情報の流出、偽装表示等)
- 雇用・労働に関する違反(賃金不払い、違法な時間外労働、ハラスメント等)
ここからは、従業員のシフト管理や勤怠管理などと関係性の深い、雇用・労働に関するコンプライアンス違反について詳しく解説します。
上限を超えて残業させる
人手不足の職場では、残業をして業務を行うケースもあります。
『労働基準法』第36条では、時間外労働は原則として月45時間・年360時間と定められており、特別の事情がなければこれらの時間を超えることはできません。
また、2019年4月から施行された働き方改革によって、これまでは行政指導のみだった時間外労働について規制が設けられました。これにより、臨時的な特別の事情があって労使が合意した場合でも、以下の上限を超えて残業させることはできません。
▼時間外労働の上限
- 年間720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 複数月の平均で80時間以内
- 月45時間を超えられるのは年に6ヶ月が限度
法改正前の方法で従業員の労働時間を管理していると、残業時間が上限を超過して法令に違反してしまう可能性があるため、注意が必要です。
出典:e-Gov法令検索『労働基準法』/厚生労働省『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』
年次有給休暇を取得させない
限られた従業員で業務を行っている場合、従業員の年次有給休暇の申請に応じることが困難なケースがあります。
しかし、単に「業務が忙しいから」という理由で年次有給休暇の取得を妨げたり、使用者が従業員の休暇日を変更できる時季変更権を行使したりすることはできません。
また、年次有給休暇を取得した従業員に対して、「賞与額算定の際に欠勤として処理する」「賃金を減額する」など不利益な取扱いをすることも禁止されています。
年次有給休暇の付与ルールには、主に以下の2つが定められています。
▼年次有給休暇の付与に関するルール
- 労働者が指定する日に年次有給休暇を付与する
- 年次有給休暇が10日以上付与される従業員を対象に、年5日の年次有給休暇を取得させる
従業員に年次有給休暇を付与しない、あるいは妨げる行為をすることは、コンプライアンス違反にあたります。
なお、1のルールに関しては、事業の正常な運営を妨げるやむを得ない事情がある場合、年次有給休暇の時季変更が可能です。
出典:厚生労働省『年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています』『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』
外国人労働者に許可なく労働させる
外国人が日本で働く場合、就労が認められた在留資格を取得する必要があります。
在留資格のうち、次の5つについては原則として就労が認められていません。
- 留学
- 家族滞在
- 短期滞在
- 文化活動
- 研修
留学や家族滞在の外国人がアルバイトなどで就労活動を行う場合には、地方入国管理局で資格外活動の許可を受ける必要があります。
資格外活動の許可なく労働させることは法令違反にあたるため、注意が必要です。
出典:厚生労働省『外国人の方を雇い入れる際には、就労が認められるかどうかを確認してください。』
年少者に深夜業をさせる
高校生を含む満18歳未満の年少者については、週40時間以内、1日8時間以内という労働時間の制限があります。
また、22時から5時までの深夜時間帯に働かせることはできないほか、危険有害業務への就労も禁止されています。
たとえば、複数の職場で掛け持ちをしている高校生のアルバイトもいるため、労働時間の超過には注意が必要です。
なお、2022年4月に、民法改正によって成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。民法における未成年の取扱いは変わりますが、年少者の年齢については変更はありません。
▼未成年者・年少者の取扱い
改正前 |
改正後 |
|
未成年者 |
満20歳に達しない者 |
満18歳に達しない者(法改正により引き下げ) |
年少者 |
満18歳に満たない者 |
満18歳に満たない者(変更なし) |
出典:厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署『高校生等を使用する事業主の皆さんへ』/厚生労働省 栃木労働局『年少者使用の際の留意点』/厚生労働省 茨城労働局『労働基準法のあらまし』/政府広報オンライン『18歳から“大人”に!成年年齢引下げで変わること、変わらないこと。』
企業コンプライアンスを強化する方法
労働基準法をはじめとする法令を遵守することはもちろんのこと、従業員にとって働きやすい職場環境をつくるためには、コンプライアンスの強化に向けた取組みが求められます。
ここからは、企業コンプライアンスを強化する方法について解説します。
①コンプライアンス規程を作成する
コンプライアンスに関わる具体的な実務規定や、行動指針などをまとめた規程を作成します。
経営者がコンプライアンスの重要性を認識している場合でも、遵守する方針や行動規範が共有されていない場合、組織として適切なリスク管理を行うことが難しくなります。
遵守事項や責任の範囲などを規程にまとめて明文化することで、コンプライアンスの共通認識を高め、リスク管理の徹底につなげることが可能です。
コンプライアンス規程で定める事項には、以下が挙げられます。
▼コンプライアンス規程の事項
- コンプライアンス規程を設ける目的
- 適用される従業員の範囲
- 遵守事項(実務規定、違法行為の禁止、情報取扱いルール等)
- 違反が発生した場合の報告者と責任者
②組織全体の意識を高める
企業コンプライアンスを強化するには、経営陣が主体となって組織全体の意識向上を図ることが重要です。
理由は、コンプライアンスに対する意識の低さから不正行為や法令違反につながる行動が引き起こされる可能性があるからです。
コンプライアンスを遵守することの重要性や、違反した場合のリスクについて組織内で共有することで、違反行動の抑止、意識の向上につなげます。
▼組織の意識向上を図る方法
- コンプライアンス管理体制を示したフレームワークを作成して、社内で共有する
- 過去の不祥事や同種事案について社内で共有して、継続的な注意喚起を行う
- 高い倫理観を醸成するための研修を定期的に実施する
出典:金融庁『コンプライアンス・リスク管理に関する傾向と課題 』
③内部統制を見直す
内部統制とは、健全な経営活動を行うための社内ルールや仕組みを整備して、適切に機能するように運用することです。
経営陣のコンプライアンスに関する方針・対策を組織全体に浸透させるためには、役職員や中間管理職の姿勢が重要となります。
内部統制を見直して、役職員や中間管理職による社内の指揮・監督機能を整備することで、企業の不祥事防止、コンプライアンスリスク管理の徹底につながります。
▼内部統制を見直す方法
- 役職や部署、業務内容に応じて適切な人事・報酬制度を策定する
- コンプライアンス違反行為に対する減点評価・罰則を設ける
- 内部通報制度を導入する(人事部所轄の窓口、外部有識者の窓口等)
- 社内のチェック体制、内部監査役によるモニタリングを実施する
出典:金融庁『コンプライアンス・リスク管理に関する傾向と課題 』
労務コンプライアンスを強化する方法
人手不足や業務多忙な職場は、労務コンプライアンス違反が発生しやすい環境といえます。労務に関するコンプライアンスの意識を高めて、法令違反のリスクを低減するには、システムを活用するのも方法の一つです。
シフト管理システムの『シフオプ』は、シフト作成の段階で、法定労働時間の超過や休日数の不足などのコンプライアンス違反を発見して修正できます。
組織全体でシフトを共有できるため、長時間労働が発生している従業員に対して、勤務時間や日数を調整するといった対応も可能です。
労務に関するコンプライアンスを強化するために、シフト管理体制を見直してみてはいかがでしょうか。
まとめ
この記事では、企業コンプライアンスについて以下の内容を解説しました。
- コンプライアンスとは何か
- コンプライアンスの重要性
- 身近なコンプライアンス違反
- 企業コンプライアンスを強化する方法
- 労務コンプライアンスを強化する方法
社会全体でコンプライアンスへの意識が高まるなか、企業には法令遵守はもちろん、社内の行動規範の遵守、社会的責任を果たすための行動が求められます。
そのためには、経営陣による意識改革をはじめ、コンプライアンス規程の作成、内部統制の見直しなど、組織全体における管理体制を強化することが重要です。
なかでも、労務コンプライアンスの強化に関しては、従業員の勤務状況を適切に管理できる体制を整備することが欠かせません。
シフト作成・管理システムの『シフオプ』なら、従業員のシフト状況が可視化され、過度な残業や法令違反を未然に防ぐことが可能です。シフオプを活用して、労務管理の効率化と適正化を進めてみてはいかがでしょうか。
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