
労働基準法における残業時間のルール。定義や上限について解説
※2019年4月1日公開の記事に修正を加えています。
従業員の残業時間は、労働基準法で定められたルールに則って管理する必要があります。
2019年4月には、働き方改革関連法の施行によって残業時間の上限規制が新たに設けられており、さらに厳しい労働時間の管理が求められています。
企業が法令を遵守した労務管理を行うために、残業時間のルールについて把握しておくことが重要です。
この記事では、労働基準法における残業時間の定義や上限について解説します。
労働基準法で定められている残業時間の定義
『労働基準法』における残業時間とは、第32条で定められた1日8時間・1週40時間という法定労働時間を超える労働時間のことを指します。この法定労働時間は、企業が独自に定める“所定労働時間”とは意味が異なるため注意が必要です。
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
引用元:e-Gov法令検索『労働基準法』第32条
ここでは、法定時間内残業と法定時間外残業の定義をはじめ、残業時間に関する基本的なルールについて解説します。
出典:厚生労働省『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』/e-Gov法令検索『労働基準法』
法定時間内残業と法定時間外残業
残業と呼ばれるものには、法定時間内残業と法定時間外残業の2種類があります。
法定時間内残業とは、1日8時間・1週40時間という法定労働時間を超えない範囲で行う残業のことです。
たとえば、就業規則で所定労働時間が7時間と定められている場合において、8時間勤務したケースでは、1時間の法定時間内残業が発生していることになります。このケースでは、労働時間の原則となる8時間を超えていないため、割増賃金は発生しません。
一方、法定時間外残業は、法定労働時間を超えて働く労働時間のことです。時間外労働と呼ばれることもあります。たとえば、1日に10時間勤務した場合、法定時間外残業が2時間発生しているため、その分の賃金は割増されます。
出典:厚生労働省『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』/厚生労働省 東京労働局『しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編』
法定時間外残業は“36協定”の締結が必要
1日8時間・1週40時間という法定労働時間を超えて働かせる場合には、“36(サブロク)協定”と呼ばれる労使協定を締結する必要があります。
36協定は、『労働基準法』第36条に記載されている協定の通称で、労働者の過半数を代表する者もしくは労働組合と書面による協定を結んで、労働基準監督署に届け出ます。
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
引用元:e-Gov法令検索『労働基準法』第36条
届出をせずに従業員に法定時間外残業をさせた場合は、同法第32条違反となり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるため注意が必要です。
ただし、36協定を締結すれば、法定時間外残業を何時間も行わせてよいというわけではありません。
同法では、法定時間外残業の上限時間が月45時間・年360時間と定められています。臨時的な特別な事情がなければ、上限時間を超える労働はできません。上限時間を超える場合には、“特別条項付き36協定”の締結が必要です。
出典:厚生労働省『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』
特別条項付き36協定における上限規制
臨時的な特別な事情があり、特別条項付きの36協定を締結した場合でも、法定時間外残業ができる上限時間が設けられています。
▼特別条項付き36協定における時間外労働の上限規制
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働・休⽇労働の合計が⽉100時間未満
- 時間外労働・休⽇労働の合計が複数月平均80時間以内(2~6ヶ月平均がすべて80時間を下回ること)
- 時間外労働が⽉45時間を超えられるのは、年6ヶ月まで
特別条項の有無にかかわらず、上記の時間を超えて労働させた場合は、法律違反となり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるため、注意が必要です。
出典:厚生労働省『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』
割増賃金の支払い義務
事業主は、法定労働時間を超えて残業させた場合に、通常の賃金に加えて割増賃金を支払う義務があります。
ただし、時間外労働の種類によって割増賃金率が異なるため、賃金の計算には十分に注意が必要です。ここでは、法定労働時間を超えて残業させた際に支払う割増賃金について解説します。
割増賃金の種類
割増賃金には3つの種類があります。それぞれの種類と割増賃金率は以下のとおりです。
▼時間外労働の種類と割増率
種類 |
条件 |
割増率 |
時間外労働 |
法定労働時間(1日8時間・週40時間)以上 |
25%以上 |
時間外労働が36協定の上限時間(月45時間、年360時間等)以上 |
25%以上(※1) |
|
時間外労働が1ヶ月60時間以上 |
50%以上(※2) |
|
休日労働 |
法定休日(週1日)に勤務させる |
35%以上 |
深夜労働 |
深夜時間帯(22時~5時)に勤務させる |
25%以上 |
厚生労働省 東京労働局『しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編』を基に作成
※1…25%以上になるように努める必要がある
※2…2023年4月1日から中小企業も適用される
また、割増賃金は重複して発生することにも注意が必要です。時間外労働が深夜時間帯にあたる場合は、通常の割増率25%と深夜手当の25%を合わせて50%以上の割増賃金の支払いが必要です。休日労働が深夜業となった場合は、休日手当の35%と深夜手当の25%を合わせた60%以上の割増賃金が発生します。
ただし、休日労働に対する法定労働時間は存在しないため、休日労働と時間労働の割増賃金が重複することはありません。
出典:厚生労働省『法定労働時間と割増賃金について教えてください。』/厚生労働省 東京労働局『しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編』
割増賃金の計算方法
ここでは、割増賃金の計算方法について、例を用いて解説します。日給制・月給制の場合は、1時間あたりの賃金に換算してから算出します。
ただし、月給から算出する場合、以下の手当は月給に含まないものとして考えます。通勤手当や住宅手当、家族手当など、一律支給の場合は、月給に含まれます。
- 通勤手当
- 別居手当
- 単身赴任手当
- 家族(扶養)手当
- 住宅手当
- 結婚手当、出産手当のような臨時手当
▼月給制における支給額の計算
以下の条件で時間外手当を算出する場合
※1日の法定労働時間は8時間、年間所定休日が122日、臨時で皆勤手当が10,000円支給されるものとする。 ▽1ヶ月の平均所定労働時間 ▽1時間あたりの基本賃金 ▽1時間あたりの時間外手当 ▽1ヶ月の時間外手当 1,953円 × 2時間 × 10日=39,060円 |
この場合、月給と皆勤手当を合わせた253,000円に、時間外手当を加えた292,060円を支払うことになります。
▼時給制における支給額の計算(時給1,500円で12時~23時まで労働した場合)
実働10時間・休憩1時間、時間外手当は2時間になる。2時間のうち1時間分については時間外手当と深夜手当を重複して支払う。
|
出典:厚生労働省 東京労働局『しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編』/厚生労働省 東京労働局『3.残業手当等の端数処理はどうしたらよいか』
残業時間に含まれる時間・含まれない時間
割増賃金を算出する際、「これは残業時間に含まれるのか」と疑問に思われるケースもあるのではないでしょうか。
事業主の指揮命令下にある場合は、労働時間とみなすことができます。
▼残業時間に含まれるケース
- 飲食店で来客を待っている時間
- 荷下ろしや積み込みの際の待機時間
- 参加を実質的に強制されている研修時間
- 職場で制服に着替えることが義務付けられている場合の時間
一方、以下のような時間については、労働時間としては扱われません。
▼残業時間に含まれないケース
- 業務から離れて休憩している時間
- 業務上の指示ではない自分の意思での掃除や整理整頓の時間
- 通勤や出張先への移動にかかる時間
ここからは、変形労働時間制とフレックスタイム制における残業時間の取扱いについて解説します。
変形労働時間制の場合
変形労働時間制を採用している場合は、残業として割増賃金が発生する基準が異なるため注意が必要です。
変形労働時間制とは、1ヶ月や1年間などの一定期間を平均して、1週間あたりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲で、特定の日・週に法定労働時間を超えて労働できる制度です。
残業として割増賃金が発生する時間には、以下が挙げられます。
▼変形労働時間制で割増賃金が発生する労働時間
1日の法定時間外残業 |
|
1週の法定時間外残業 |
※1日の法定時間外残業を除く
|
対象期間の法定時間外残業 |
対象期間の法定労働時間総枠を超えて労働した時間 ※1日・1週の法定時間外残業を除く |
厚生労働省『1か月単位の変形労働時間制』/厚生労働省 東京労働局『1年単位の変形労働時間制導入の手引』を基に作成
出典:厚生労働省『労働時間・休日』『1か月単位の変形労働時間制』/厚生労働省 東京労働局『1年単位の変形労働時間制導入の手引』
フレックスタイム制の場合
フレックスタイム制では、事前に設定した総労働時間を超えた場合に、残業扱いとなって割増賃金が発生します。
フレックスタイム制とは、一定期間を平均して1週間の労働時間が法定労働時間を超えない範囲内で総労働時間を定めて、始業・終業時刻を従業員が自主的に決定できる制度です。
1~3ヶ月間の清算期間における労働時間が、事前に定めた総労働時間を超える場合に、割増賃金を支払う必要があります。
▼フレックスタイム制で時間外労働が発生するケース
画像引用元:厚生労働省『フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き』
出典:厚生労働省『労働時間・休日』『フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き』
長時間の残業がもたらすリスク
しっかりと残業代を支払い、法律上問題がない範囲であっても、過度な長時間労働は従業員の労働災害へのリスクが生じる可能性があります。
長時間にわたる残業は、従業員の疲労が蓄積して、健康問題や過労死につながる恐れがあります。万が一労働災害が発生した場合には、企業の責任が問われて、被災者や親族から損害賠償を求められるケースもあります。
このようなリスクを防ぐためには、従業員の労働時間を把握したうえで、過度な残業が発生しないように労務管理を徹底することが重要です。
出典:厚生労働省『STOP!過労死』
まとめ
この記事では、残業に関するルールについて、以下の項目を解説しました。
- 労働基準法における残業時間の定義
- 割増賃金の支払い義務と計算方法
- 残業時間に含まれる時間・含まれない時間
- 長時間の残業がもたらすリスク
働き方改革の一環となる労働基準法の改正によって、法定時間外残業ができる時間の上限が定められています。臨時的な特別な事情がある場合でも、一定の労働時間を超えて働かせることはできません。
また、法定時間外残業については、割増賃金の支払いが義務づけられています。変形労働時間制やフレックスタイム制では、残業の扱い方が異なるため、賃金計算の際には注意が必要です。
なお、過度な残業は健康問題や過労死を招くリスクもあります。企業の担当者は、従業員の労働時間を適切に把握して、過重労働が発生しないように管理することが重要です。
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