
コンプライアンス教育の方法。経営リスクを回避するには
※2025年6月20日更新
近年、企業に対してコンプライアンスの徹底が求められています。コンプライアンス違反が生じた場合、社会的な評価に影響して経営リスクにつながる可能性もあります。
コンプライアンスを徹底するには、従業員一人ひとりへのコンプライアンス教育が重要です。
この記事では、コンプライアンスについて、概要や教育の重要性・方法、違反の例、違反によるリスクの回避方法を解説します。
コンプライアンスとは
コンプライアンスは日本語で”法令遵守”と訳されることが一般的ですが、ビジネスの現場においては法令遵守だけにとどまらない広い範囲を含みます。
▼企業におけるコンプライアンスの例
コンプライアンスの例 |
概要 |
社内規則・就業規則 |
職務を遂行するためのルールや労務についての規則 |
社内規則の整備 |
規則の独善的・恣意的な運用を防止するためのルールの整備 |
リスク管理 |
ハラスメントや情報漏洩などの防止に向けた規定 |
企業倫理 |
道徳・環境保全・衛生管理・安全管理など、企業が社会的存在として守る基準 |
法に反しなければ何をやってもいいという考え方でいると、違反スレスレの行動を取ったり、法律的にグレーな部分を利用したりと社会や消費者からの信頼を失いかねない事態に発展する可能性が懸念されます。
健全な企業活動を続けるには、倫理規範や道徳を社内全体で共有し、労使双方が確実に守っていく環境や教育が必要です。
コンプライアンス教育の重要性
コンプライアンス教育は、従業員一人ひとりに法令や倫理規範、社内規則の遵守・指導を徹底して、企業の社会的信用を守るために重要です。
たった一人のアルバイトによるコンプライアンス違反でも、社会からは企業の社内風土や環境、ガバナンスの不全、社内全体の意識の低さが原因と見なされ、企業全体の問題として扱われます。
社内全体で高い倫理観を共有して法律や条令よりも厳しく細かいコンプライアンスを設定・教育することで、消費者や投資家からの信頼が高まって企業の価値向上が期待できます。
▼コンプライアンス教育で扱う内容の例
- ハラスメントに関する知識
- 著作権・特許権に関する知識
- 独占禁止法・下請法に関する知識
- 不正経理に関する知識
- 情報セキュリティに関する知識 など
コンプライアンス違反の例
実際に働くうえで、職場で起きやすいコンプライアンス違反の例を紹介します。一つでも当てはまる場合、社内環境の改善が必要です。
有給休暇の取得拒否
有給休暇の取得を拒否すると、『労働基準法』第39条の違反となります。
▼労働基準法第39条第1項
(年次有給休暇)
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
引用元:e-Gov法令検索『労働基準法』
有給休暇の取得自体は拒否できませんが、特定の要件を満たしていれば、有給休暇の取得時期の一部を雇用者側で指定することが可能です。
▼労働基準法第39条第5項、第6項
⑤ 使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
⑥ 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項から第三項までの規定による有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、これらの規定による有給休暇の日数のうち五日を超える部分については、前項の規定にかかわらず、その定めにより有給休暇を与えることができる。
引用元:e-Gov法令検索『労働基準法』
出典:e-Gov法令検索『労働基準法』
指示されていない残業
会社から指示されていない残業の実施は就業規則で禁止されているケースがあり、その場合はコンプライアンス違反となります。
ただし、直接的な残業の指示がなくとも、残業なしでの完遂が困難な内容・量の業務が命じられていた場合には、黙示の指示があったと判断される可能性もあります。
▼労働時間の考え方
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。
引用元:厚生労働省『労働時間の適正な把握 のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』
出典:厚生労働省『労働時間の適正な把握 のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』
ハラスメント
ハラスメントとは、いじめや嫌がらせを意味します。被害を受けた従業員が退職や疾患に追い込まれた場合、企業は訴訟を受けるリスクもあります。
特にパワーハラスメントやセクシャルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業などに関するハラスメントに関しては、対策が事業主に義務づけられています。
▼労働施策総合推進法第30条の2
(雇用管理上の措置等)
第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
引用元:e-Gov法令検索『労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律』
▼男女雇用機会均等法第11条および第11条の3
(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第十一条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第十一条の三 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
引用元:e-Gov法令検索『雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律』
▼育児介護休業法第25条
(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第二十五条 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
引用元:e-Gov法令検索『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律』
出典:e-Gov法令検索『労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律』『雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律』『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律』
転職先への情報漏えい
社内でしか知りえない情報を外部に漏えいすることは、『不正競争防止法』の違反になる場合があります。現在の職場だけでなく、過去に働いていた職場についても同様です。
▼不正競争防止法第2条第4項
四 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「営業秘密不正取得行為」という。)又は営業秘密不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。次号から第九号まで、第十九条第一項第七号、第二十一条及び附則第四条第一号において同じ。)
引用元:e-Gov法令検索『不正競争防止法』
企業はセキュリティ管理を確実に行うとともに、情報漏えいのきっかけともなる職場や仕事への不満に耳を傾ける必要があります。
出典:e-Gov法令検索『不正競争防止法』
ソフトウェアの違法コピー
企業が正規に購入したソフトウェアのほとんどは、ダウンロードの上限数が決まっています。規定回数を超えてダウンロードやコピーをすることは著作権侵害に該当し、コンプライアンス違反となります。
▼ソフトウェアの違法コピーについて
(2) 違法複製等
ソフトウェアは,著作物として著作権法で保護されており,著作権者に無断で複製することは禁止されている。この場合,著作権法及び使用許諾契約書(約款)に違反して複製する行為を示す。
引用元:経済産業省『ソフトウェア管理ガイドライン』
画像や動画についても同様の違反となる場合がありますので、注意が必要です。
なお、コンプライアンス違反の事例についてはこちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。
出典:経済産業省『ソフトウェア管理ガイドライン』
コンプライアンス教育の方法
コンプライアンス教育を実施する際は、従業員を研修やセミナーに参加させる方法のほか、eラーニングによるオンラインでの学習を推進する方法もあります。
▼コンプライアンス教育の方法
- 外部の研修に参加させる
- 専門講師を招いてセミナーを実施する
- eラーニングを導入する など
コンプライアンス違反による経営リスクを回避するには
コンプライアンスは経営者や管理者、従業員それぞれが徹底して遵守する必要があります。そのためにはコンプライアンス教育の質を高めるだけでなく、日々の業務を見直して従業員に過重な負担がないかをチェックすることも欠かせません。
勤務時間が不規則なシフト制の職場では、労働時間の管理も複雑になりがちで、就業規則違反や法令違反が起きやすくなります。こうした労務コンプライアンス違反を防止するためには、アラート機能を持つシフト管理システムの導入が有効です。
適切な労働時間管理で従業員との信頼関係を維持することで、健全な企業経営を持続させられます。
まとめ
この記事では、コンプライアンス教育について以下の内容を解説しました。
- コンプライアンスの定義
- コンプライアンス教育の重要性
- コンプライアンス違反の例
- コンプライアンス教育の方法
- コンプライアンス違反による経営リスクを回避する方法
コンプライアンスは、法令遵守だけでなく、倫理観や道徳観など広義の意味で使用されます。コンプライアンスの徹底は企業価値を高める大切な施策です。社内でコンプライアンスの重要度が低ければ、たとえ経営者でもコンプライアンスに反する行動をとるリスクがあります。
有効な対策の一つは、すべての経営者と従業員がコンプライアンス遵守への意識を高めることです。企業全体でコンプライアンス教育を行うことで、コンプライアンス違反を未然に防止できる環境を整備できます。
また、ITシステムの活用も有効です。違反の起きやすい労務関連の業務も、システムの活用でより正確に管理することが可能です。コンプライアンス教育と同時に進めていくことで、企業のコンプライアンス体制はより強固なものとなります。
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