
時間外手当の法律とは。企業担当者が適正化するための対策には
※2026年2月19日更新
人材を管理する立場の方にとって、時間外手当に関する法律の知識は欠かせません。
法律の定義を理解するのは難しく、法改正も行われるため、時間外手当についてきちんと把握するのはなかなか難しいものです。しかし、だからといって知らないままでいると、思わぬ法律違反により罰則が適用されるおそれもあります。
今回は知らなかったでは済まされない時間外手当について、その定義から具体的な計算方法まで解説していきます。
目次[非表示]
時間外手当の法律における定義
時間外手当とは、労働基準法で定められた「法定労働時間」を超えて労働させた場合に、通常の賃金に一定の割増率を加えて支払う賃金を指します。
労働基準法第32条では、原則として労働時間は1日8時間、1週40時間までと定められています。この上限を超える労働が「時間外労働」となり、同法第37条に基づき割増賃金の支払いが義務付けられています。
▼労働基準法第32条
(労働時間)第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。②使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
引用元:e-Gov法令検索『労働基準法』
▼労働基準法第37条
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
引用元:e-Gov法令検索『労働基準法』
重要な点として、アルバイトやパートであってもこの規定は同様に適用され、雇用形態による例外はありません。
同条では、時間外労働だけでなく、休日労働や深夜労働についても割増率が明確に定められており、企業や店舗側はこれらを正確に区別して計算・支給する必要があります。
出典:厚生労働省『確かめようアルバイトの労働条件』/e-Gov法令検索『労働基準法』
時間外労働を行うための法律上の手続き
雇用者が労働者に時間外労働をさせるには、一定の条件に基づく手続きが必要です。また、手続きを行ったとしても時間外労働には上限があります。
労働契約書と就業規則に記載する
事業所を営む企業が労働者を雇用する際は、労働者との間で労働条件等を明記した労働契約を結びます。必要に応じて時間外労働をさせる場合、この労働契約書に時間外労働が可能であることを記載しなければなりません。
労働者が守るべき労働条件や規律に関して定めた就業規則にも、時間外労働が可能な点を記載することで残業を依頼できるようになります。
36協定を労働基準監督署に届け出る
時間外労働を適法に行うためには、36協定を労使間で締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。
36協定とは、労働基準法第36条に基づき、法定労働時間を超える労働や法定休日労働を行うことについて合意するための労使協定を指します。協定の届出がない状態で時間外労働をさせると、割増賃金を支払っていても違法となります。
▼労働基準法第36条
(時間外及び休日の労働)第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
引用元:e-Gov法令検索『労働基準法』
特別条項付き36協定を締結する場合でも、上限規制は厳格に定められています。
時間外労働は年720時間以内、単月では100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均では80時間以内とされ、45時間を超える残業は年6回までに制限されています。

画像引用元:厚生労働省『時間外労働の上限規制』
特別な理由がある場合は36協定に特別条項を設けて一時的に上限時間を上回ることは可能です。ただし、36協定における時間外労働の上限の原則があるので理解しておくようにしましょう。
出典:e-Gov法令検索『労働基準法』/厚生労働省『時間外労働の上限規制』
法律に基づく時間外手当の具体的な計算方法
2023年4月以降、これまで猶予されてきた中小企業を含めたすべての会社に、時間外労働に対し改正割増賃金率の適用が義務付けられます。
従来の中小企業では、時間外労働に対して、25%の割増賃金率を一律に適用していました。この場合、1日10時間ずつ勤務したとすると、1日当たり2時間ずつの時間外労働であれば、1時間当たりの賃金×1.25で計算できます。
この場合の時間外手当は、次の計算式で算出されます。
時間外手当 = 1時間当たりの賃金 × 1.25 × 時間外労働時間 |
例えば、1時間当たりの賃金が1,200円の場合、1日の時間外手当は次のとおりです。
1,200円 × 1.25 × 2時間 = 3,000円 |
このように、25%の割増率を適用すれば、時間外労働分の賃金を比較的シンプルに計算することができます。
また、月給制の労働者の場合、【1日当たりの所定労働時間×月勤務日数÷月】の基本給で、時間外手当の計算に必要な1時間当たりの賃金が算出できます。
改正後の割増賃金率が適用されるようになると、月60時間を上回る分の時間外労働には25%でなく50%の割増賃金が加算されます。
この場合は月60時間までの時間外手当と、60時間を超える分の時間外手当を別々に計算する必要が出てきます。仮に月70時間残業したとすると、60時間までは1時間当たりの賃金×1.25、残り10時間分は×1.5となります。
時間外手当を支払わないとどうなる?
時間外手当を支払わずに時間外労働をさせた場合、労働基準法違反の罰則が適用されるため、企業として大きなリスクを背負うことになります。
刑事上の罰則は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
労働基準法第32条は原則として「1日8時間週40時間を超えて労働させてはならない」と規定しており、その例外である時間外労働の割増賃金に関しては37条に規定があります。
これらの規定に違反した場合、刑事上では6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。ただし、こうした刑事上の罰則が科されるのは労働基準監督署の是正勧告でも改善されない悪質なケースです。
民事上では未払金の支払い、悪質なケースでは付加金支払いも
時間外手当の未払いに対する罰則には民事上の規定もあり、違反が認められれば未払金の支払いを命じられます。裁判所が悪質と認めたケースに対しては、最大で未払金と同額の付加金支払いも命じられる可能性があります。
なお、未払金・付加金ともに遅延損害金が加算されるため、雇用中の労働者に対しては年6%の加算ですが、退職した労働者に対しては年14.6%に上がります。
こうした時間外手当の未払いが発覚して裁判に発展した場合にはブラック企業の汚名を着せられ、人材確保が困難になるというリスクも発生します。
出典:e-Gov法令検索『賃金の支払の確保等に関する法律』
時間外手当の法律問題を防ぎ、適正化するための対策
時間外手当を巡るトラブルは、制度そのものではなく運用の不備から生じることがあります。日々の管理体制を見直し、法令に沿った仕組みを整えることで、未然に問題を防ぐことが可能です。ここでは、実務に取り入れやすい代表的な対策を紹介します。
勤怠管理システムを導入する
勤怠管理システムを導入することで、出退勤時刻や残業時間を自動的に記録でき、労働時間の把握精度が向上します。手書きや自己申告に頼った管理では、記録漏れや修正作業が発生しやすく、未払い残業につながるリスクが高まります。
システム化することで、管理者は労働時間をリアルタイムで管理でき、36協定の上限超過なども早期に把握できます。特に複数店舗や拠点をかかえる企業にとっては、全体の労働時間を一元管理できる点が大きなメリットです。適正な時間外手当の支払いは、従業員の信頼確保にもつながります。
労働時間制度や管理体制の見直を行う
現行の労働時間制度や管理体制が、実際の業務内容と合っていない場合、時間外労働は慢性化しやすくなります。シフトの組み方や業務分担、繁忙時間帯の人員配置などを見直すことで、不要な残業を減らすことが可能です。
また、管理者自身が法定労働時間や割増賃金の仕組みを正しく理解していなければ、現場での判断にばらつきが生じます。定期的な制度確認や管理者向けの研修を行うことで、法令遵守の意識を組織全体に浸透させることが重要です。結果として、時間外手当の支払い漏れや過重労働の防止につながります。
まとめ
この記事では、時間外手当の法律に関して、以下の内容を解説しました。
- 時間外手当の法律における定義
- 時間外労働を行うための法律上の手続き
- 法律に基づく時間外手当の具体的な計算方法
- 時間外手当の法律問題を防ぎ、適正化するための対策
時間外手当に関する法律は、経営者や管理者であれば知らなかったでは済まされない、労働者の生活を守る大切な法律です。たとえうっかりであったとしても、裁判ともなれば企業の信用には大きな傷がつきますので、常に注意して違反しないようにしましょう。
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