小売業の原価率はどれくらい? 目安や計算方法、適正化を図る方法
※2024年9月20日更新
小売業は、メーカーや卸売事業者から商品を仕入れて、消費者へと販売する橋渡しの役割を担っています。
商品の仕入れにかかった原価は小売事業者の利益に直結するため、適正な原価率を維持できるように管理することが重要です。
この記事では、小売業における原価の種類や原価率の目安、計算方法、適正化を図る方法について解説します。
なお、飲食店の原価率についてはこちらの記事をご確認ください。
目次[非表示]
小売業における原価とは
小売業における原価には、主に仕入れ原価と売上原価の2種類があります。
①仕入れ原価
仕入れ原価とは、メーカーや卸売事業者から商品を仕入れた際にかかったコストを指します。あくまで仕入れの段階でかかったコストとなるため、実際に売れたかどうかは関係ありません。
②売上原価
売上原価とは、一定の期間内に売れた商品の販売にかかったコストを指します。商品の仕入れ原価のうち、一定の期間内に売れた商品にかかったコストが売上原価に該当します。小売業でいう原価とは、売上原価を指すことが一般的です。
小売業における一般的な原価率
小売業の原価率は事業形態や取り扱う商材によって異なりますが、一般的に50~75%程度とされています。
▼【事業形態別】原価率の目安
業種 |
原価率の目安 |
スーパーマーケット |
65~75% |
デパート |
50〜60% |
また、経済産業省の『2023年経済産業省企業活動基本調査速報(2022年度実績)』によると、小売業全体における原価率の平均は71.7%となっています。
小売業では、ほかの業種と比べて原価率が高くなりやすく、売上に占める原価の割合が大きいことが特徴です。利益を確保するには、自社の事業形態や商材に適した原価率を設定してコスト管理を行うことが求められます。
出典:経済産業省『2023年経済産業省企業活動基本調査速報(2022年度実績)』
売上原価と売上原価率の計算方法
売上原価は、期首(※1)の在庫商品金額と当期(※2)仕入れ原価、期末(※3)の棚卸金額をそれぞれ求めることで算出できます。
▼売上原価の計算式
売上原価(円) = 期首の在庫商品金額 + 当期仕入れ原価 - 期末の棚卸金額 |
【例】60円で仕入れた歯ブラシを1本300円で販売する場合
前期に仕入れたものの販売されなかった歯ブラシが10本あり、当期さらに200本を仕入れた。当期205本を売り上げて、期末に5本の在庫が残った。 |
▼売上原価の計算例
計算項目 |
計算式 |
A.期首の在庫商品金額 |
60円 × 10本 = 600円 |
B.当期仕入れ原価 |
60円 × 200本 = 12,000円 |
C.期末の棚卸金額 |
60円 × 5本 = 300円 |
売上原価(A+B-C) |
600円 + 12,000円 - 300円 = 12,300円 |
上記の例では、売上原価は12,300円となります。
また、売り上げに対する売上原価の割合を“売上原価率”といいます。売上原価率が低くなるほど、得られる利益は大きくなります。
▼売上原価率の計算式
売上原価率(%)=売上原価 ÷ 売上高 × 100 |
上記の例を踏まえて計算すると、当期の売上高は[300円 × 205本 = 61,500円]となるため、売上原価は[12,300円 ÷ 61,500円 × 100 = 20%]と算出できます。
※1…会計期間の開始日のこと
※2…現在の会計期間のこと
※3…会計終了日のこと
小売業の原価率が高くなる原因
小売業の原価率が高くなる原因には、仕入れ価格や販売価格が適正に設定されていなかったり、在庫ロスが発生していたりする可能性が考えられます。
①仕入れ価格が高い
仕入れ価格が高くなると、原価率の上昇を招きます。小売業で仕入れ価格が高くなるケースには、以下が考えられます。
▼仕入れ価格が高くなるケース
- 各商品の仕入れ量が少なく、仕入れ先との取引価格が割高になっている
- 為替変動によって輸入品の仕入れ価格が上昇した
- サプライチェーンによる生産不足や供給の遅延により、卸売価格の引き上げが行われた など
仕入れ価格を原因とする原価率の上昇を防ぐには、一度に仕入れる量や仕入れ先を見直すことが必要となります。
②販売価格が低すぎる
商品の販売価格が低すぎる場合には、売上に占める原価率が高くなり、販売者側の利益が生まれにくくなります。
小売業において販売価格を低く設定するケースには、以下が挙げられます。
▼販売価格を低く設定するケース
- 販売数を増やすために、競合他社の店舗よりも販売価格を低くする
- 在庫を消化するためにセールによって値引きを行う など
原価率と利益率のバランスや競合他社による販売価格を考慮したうえで、利益を確保できる適正な販売価格を設定することが重要です。
③在庫ロスが多い
商品の在庫ロスを多く抱えることも、原価率が高くなる原因の一つです。在庫ロスが増えると販売できる商品の数量が減少して売上の減少につながるため、原価率の上昇を招きます。
▼在庫ロスが発生するケース
- 食品の賞味期限・消費期限が過ぎてしまい廃棄した
- 季節限定商品をシーズン内に販売し切れなかった など
在庫ロスを減らすには、店舗の需要に応じた仕入れによって在庫の回転を促進したり、在庫管理の見直しによって在庫不良を防いだりすることが重要です。
原価率の適正化を図る方法
適正な原価率を維持して利益を安定化させるには、仕入れ方法や販売価格の見直しを検討するとともに、在庫ロスをできるだけなくすことがポイントです。
①仕入れ方法を見直す
メーカーや卸売事業者からの仕入れ価格が高い場合には、仕入れ方法を見直す方法が考えられます。
▼仕入れ方法の見直し方
- 現在よりも安価に仕入れられる仕入れ先に変更する
- 一度に仕入れる量を増やして割引の価格交渉を行う など
仕入れ先を変更する際は、複数の事業者で見積りや価格交渉を行うことがポイントです。一度の仕入れ量が多くなるほど、商品価格を割安に設定している事業者もあります。
②販売価格を調整する
為替相場やサプライチェーンの状況、市場における需給状況などを踏まえて、商品の販売価格を調整することも一つの方法です。
仕入れ原価が上昇している状況で販売価格を据え置きに設定していると、利益を出すことが難しくなります。市場価格を踏まえたうえで、柔軟に販売価格を調整することがポイントといえます。
▼販売価格の設定に用いられる手法
手法 |
概要 |
マークアップ法 |
利益率の目標を基準として、仕入れ原価に一定額の |
プライスリーダー追随法 |
業界で大きなシェアを持つ他社の販売価格を基準として |
慣習価格法 |
消費者が認知している一般的な商品価格に合わせる |
需要差別価格設定方式 |
消費者の属性・販売期間・販売時間帯などの需要に |
知覚価値価格設定方式 |
商品の価値に対して“売れる価格”を設定したうえで、 |
ただし、販売価格を引き上げる場合には、消費者からの理解を得られるように、価格に見合った付加価値の提供や値上げに至った理由の説明を行うことが必要です。
③在庫管理の方法を見直す
在庫ロスによる原価率の上昇を防ぐには、在庫管理の方法を見直して適正な在庫量を維持することが重要です。
在庫の売れ残りや賞味期限切れによる廃棄などをなくすことで、仕入れにかかったコストの損失を防いで利益の向上につながります。
▼在庫管理のポイント
- 販売実績に基づいた需要予測を行い、仕入れ量を調整する
- 賞味期限・消費期限がある商品は先入れ・先出しができる保管方法にする
- 定期的な棚卸しを実施して不良在庫の発生を防ぐ など
在庫の仕入れ発注や棚卸しなどを効率化するには、専用の在庫管理システムを活用することも有効です。
人件費を管理して利益の向上を図ることも重要
小売業で利益の向上を図るには、売上原価だけでなく人件費を管理することも重要といえます。小売業では、店舗での販売業務に携わる従業員の人件費を“販売管理費”として計上することが一般的です。
人件費が増加すると、売上に占める販売管理費が増加して利益の圧迫につながる可能性があります。人件費を適正化するには、売上予算を踏まえた人件費予算を設定してシフトの人員調整を行うことが必要です。
シフト管理システムの『シフオプ』には、シフトの収集・作成・共有に加えて、人件費の管理に役立つ機能が備わっています。
▼シフオプに備わっている人件費管理の機能
- 売上予算の登録と人件費率の算出
- 売上実績や人件費予算を踏まえたモデルシフトの作成
- 人員過不足の可視化と手動によるシフト調整 など
なお、人件費率の目安や適正化を図る方法については、こちらの記事で解説しています。併せてご確認ください。
まとめ
この記事では、小売業の原価率について以下の内容を解説しました。
- 小売業における原価の種類
- 一般的な売上原価率と計算方法
- 原価率が上昇する原因
- 原価率の適正化を図る方法
- 人件費の管理に役立つシステム
小売業の原価率は一般的に50~75%程度とされており、事業形態や取り扱う商材によって異なります。
適正な原価率を維持して利益を安定化させるには、仕入れ方法の見直しや販売価格の調整を検討するとともに、在庫管理によって在庫ロスをできるだけなくすことがポイントです。
また、利益の向上を図るには、売上に占める人件費を適正化することも重要といえます。売上予算を踏まえて人件費の設定とシフトの調整を行うには、シフト管理システムを活用することが有効です。
『シフオプ』は、シフト管理をオンラインで行えるシステムです。事前に人件費予算を設定することにより、必要な人数や過不足を見ながら人員を調整できます。
詳しくは、こちらの資料をご確認ください。