
人件費の売り上げに対する適正な割合は何パーセント? 是正するための3つの対策
※2025年4月25日更新
人件費は、経営において重要な経費の一つです。安定した利益を確保しながら長期的な成長を目指すには、人件費を適正に管理する必要があります。
特にシフト制を導入している現場では、時間帯や曜日によって忙しさが変動することがあります。そのため、売上に対してどれくらいの人件費を投入できるか把握したうえで、予算に応じた人員配置を行うことが重要です。
シフト管理者のなかには、「売上に対してどれくらいの割合で人件費を確保すればよいのか」「人件費の割合を下げる手段があるのか」と気になる方もいるのではないでしょうか。
この記事では、適正とされる人件費の一般的な割合や活用できる指標、人件費を是正するための対策について解説します。
人件費とは
人件費とは、事業活動で発生する経費のうち従業員に関わる費用を指します。経費のなかでも大きな割合を占めるため、経営判断においても重要な指標となります。
人件費に含まれる費用には、以下が挙げられます。
▼人件費に含まれる勘定項目
- 給与や賞与、残業手当、役職手当
- 通勤手当
- 役員報酬
- 法定福利費
- 福利厚生費
- 退職金 など
従業員に支払う給与・手当のほかに、法定福利費や福利厚生費も人件費に該当します。法定福利費とは、企業に負担が義務づけられている費用のことです。従業員の社会保険料や雇用保険料などの費用を企業が一部負担することになります。
福利厚生費は、従業員の健康促進やワークライフバランスの維持、モチベーションの向上などを目的とした法定外の福利厚生に対する費用を指します。例えば、健康診断や借上社宅、社員旅行、特別休暇などにかかる費用が挙げられます。
なお、派遣社員においては企業が直接雇用しているわけではないため、人件費ではなく“外注費”“人材派遣費”““雑給”などの勘定科目を用いることが一般的です。
適正とされる人件費の割合
業種や企業規模によって人件費の割合は異なりますが、適正値の目安を知ることで自社の差異を把握できるようになります。人件費の割合について目安を確認できる指標には、“売上高人件費率”と“労働分配率”が挙げられます。
人件費率
人件費率は、売上に対して人件費が占める割合を指します。人件費率には、次の2種類があります。
▼人件費率の種類
種類 |
意味 |
売上高人件費率 |
売上高に占める人件費の割合 |
売上総利益人件費率 |
売上原価を含まない粗利に占める人件費の割合 |
▼人件費率の計算式
種類 |
計算式 |
売上高人件費率 |
売上高人件費率(%)= 人件費(円)÷ 売上高(円)× 100 |
売上総利益人件費率 |
売上総利益人件費率(%)= 人件費(円)÷ 売上総利益(円)× 100 |
売上高には、売上原価や売上総利益(販売費や営業利益)などが含まれています。売上高人件費率の一般的な適正値は業種によって異なります。
▼一般的な売上高人件費率
業種 |
売上高人件費率 |
卸売業 |
5~20% |
小売業 |
10~30% |
飲食業 |
30~50% |
サービス業 |
40~60% |
建設業 |
15~30% |
製造業 |
10~50% |
売上総利益人件費率は、変動費となる原価を含んでいないため、より正確な人件費率を算出することが可能です。一般的には50%以下が適正値とされています。
労働分配率
労働分配率は、企業が生み出した付加価値額に対する人件費の割合です。
付加価値額は、生産活動で生み出された価値(利益)のうち、外部で調達した原材料や外部資源などの費用を差し引いた額を指します。例えば、原価5,000円の製品を加工して6,000円で販売した場合の付加価値額は、1,000円となります。
労働分配率を算出することで、事業活動の生産性を測ることが可能です。
▼労働分配率の計算式
労働分配率(%)=人件費(円)÷付加価値額(円)×100
労働分配率は業種や企業の規模によって異なり、全産業での平均は2023年時点で62.30%(四半期移動平均)となっています。
▼産業別の労働分配率(2023年四半期移動平均)
産業 |
労働分配率 |
製造業 |
60.80% |
情報通信業 |
58.15% |
建設業 |
69.94% |
運輸業・郵便業 |
68.05% |
卸売業・小売料 |
66.51% |
サービス業 |
71.30% |
医療・福祉業 |
86.96% |
厚生労働省『令和6年版 労働経済の分析 本文掲載図表』を基に作成
製造業と情報通信業は、全産業平均の労働分配率よりも低い数値となっています。また、資本規模別の労働分配率は、2023年時点の平均で62.30%です。
▼資本規模別の労働分配率(2023年四半期移動平均)
資本規模 |
労働分配率 |
10億円以上 |
47.80% |
1億円以上10億円未満 |
65.00% |
1千万円以上1億円未満 |
75.40% |
厚生労働省『令和6年版 労働経済の分析 本文掲載図表』を基に作成
資本規模が大きい企業ほど労働分配率が低い傾向があります。
出典:厚生労働省『令和6年版 労働経済の分析 本文掲載図表』
適正な人件費を把握するための指標
自社の適正な人件費を把握する際には、人件費率や労働分配率のほかにもさまざまな指標が用いられます。
労働生産性
労働生産性は、従業員一人当たりが生み出す付加価値の平均金額を指します。売上に対する貢献度を把握できるため、数値が高いほど従業員のパフォーマンスがよく業務を効率的に遂行していると考えられます。
▼労働生産性の計算式
労働生産性(円)=付加価値額(円)÷従業員数(人)
付加価値額の算出方法には、売上高から外部調達による価値(金額)を差し引く“控除法”と、生産プロセスで発生した価格を加算する“加算法”があります。
人時生産性
人事生産性は、従業員一人が1時間の労働によって生み出す成果を指します。
投入した労働量に対して得られた成果を粗利に基づいて評価することで、自社の生産性を把握できます。
▼人事生産性の計算式
人時生産性(円)=粗利益高(円)÷総労働時間(時間)
粗利益高は、売上高から売上原価を差し引いた利益額のことです。
一人当たりの売上高
一人当たりの売上高は、従業員が生み出した売上高の平均金額を指します。従業員が売上に対してどれくらい貢献しているか把握することで、経営の効率性を判断できます。
▼一人当たりの売上高の計算式
一人当たりの売上高(円)=売上高(円)÷従業員数(人)
ただし、一人当たりの売上高が高いからといって必ずしも経営を効率化できているとは限りません。原価の上昇や設備投資などによって数値は変わるため、ほかの指標と併せて評価することが重要です。
一人当たりの経常利益
一人当たりの経常利益は、従業員が生み出した経常利益の平均金額です。金額が高いほど、少ない従業員で効率的に利益を出していると判断できます。
主に財務分析において企業の収益性や安定性を評価するための指標として用いられています。
▼一人当たりの経常利益の計算式
一人当たりの経常利益(円)=経常利益(円)÷従業員数(人)
経常利益は、売上高から原価・販売費・営業外費用を差し引いた金額となるため、一人当たりの売上高よりも従業員の関連性を詳細に確認することが可能です。
人件費を是正するための3つの対策
人件費の割合が平均値よりも大幅に上回っている場合には、生産性を高める取り組みや人員調整を行い、人件費を削減することが重要です。
ただし、人件費を削減し過ぎると「売上を得るための活動に人手が足りない」「業務が回らず残業で対応するしかない」「従業員へ利益が還元されず、モチベーションが低下する」などの問題につながる可能性があります。
売上予算や業務量、従業員のモチベーションを考慮したうえで、適正な人件費へと見直すことがポイントです。
①業務の効率化を図る
人件費を削減するためには、業務の効率化を図ることが不可欠です。
業務が非効率になっている場合、生産性の低下や残業時間の増加につながり、人件費にも負担がかかります。
業務の効率化を図ることで、残業によって発生する残業手当の負担を削減できます。また、時間や労力がかかっていた業務の作業方法・フローなどを見直したり、アウトソーシングを導入したりして生産性を向上することで、少ない人員で対応できるようになる可能性もあります。
▼業務を効率化する方法
- 業務内容やフローを整理して作業方法を見直す
- 新しいツールやシステムを導入して、作業スピードを向上させる
- ノンコア業務にアウトソーシングを利用する
- 紙媒体で対応していた業務のペーパーレス化を図り、二重入力や手動での計算、書類管理などの作業をなくす など
②時間帯・曜日ごとに必要人員数を把握する
人件費の増加を防ぐには、時間帯・曜日ごとに必要な人員数を把握して、余剰・不足人員が発生しないようにシフトを組むことが重要です。
特にサービス業では、時間帯・曜日によって忙しさが異なるケースがあります。例えば飲食店の場合、平日の昼食や夕食の時間帯には客数が見込めますが、それ以外の時間には客入りが落ち着くと予想されます。
時間帯・曜日ごとの売上や業務量を確認して必要な人員数を把握することで、以下のような人員調整ができるようになります。
▼時間帯・曜日ごとに人員調整を行う例
- 土日や祝日にスタッフを多めに配置する
- 客入りが少ない時間帯のスタッフを減らす
- 短時間の勤務シフトを導入して、忙しい時間帯にスタッフを増員する など
これにより、余剰人員の発生を防げるほか、手待ち時間の増加による人件費の損失も抑えられます。
過去の繁閑状況に応じて平日・休日・連休などのモデルシフトを用意しておくと、各時間帯・曜日に応じて人員を割り当てやすくなります。
③時間単位で人件費を計算する
シフトの人員配置を行う際は、時間単位で人件費を計算します。
忙しさが時間帯によって変わる現場において、1日単位や半日などの大まかな時間単位で人件費の予算を計算すると、「必要な時間に人員が足りない」「人員が余剰していて仕事がない」という過不足が生まれやすくなります。
売上から逆算して月次・日次の人件費予算を設定したあとは、1時間単位や30分単位などの細かい時間単位で「売上を確保するためにどれくらいの人員数が必要か」を考えて、人件費をコントロールする必要があります。
人件費の管理にはシフト管理システムの活用が有効
人件費の負担を抑えて適正化を図るには、シフトを作成する際に人件費の計算や予算に応じた人員調整ができる体制づくりが求められます。
そこで役立てられるのが、シフト管理システムの『シフオプ』です。シフオプは、オンラインでシフトの収集・作成・共有を行えるシステムです。人件費の管理に役立つ機能が備わっており、予算に応じた人員配置を行えます。
▼人件費の管理に関するシフオプの機能
- 売上予算を登録して人件費率を算出する
- 人員の過不足状況や人件費予算を見ながらスタッフを手動で割り当てる
- 時間帯別の人員数を見ながら、投入するスタッフを調整する
「人件費を考慮したシフト管理が難しい」「手動での計算が大変」という方は、シフオプの活用がおすすめです。そのほかの機能についてはこちらをご確認ください。
まとめ
この記事では、人件費について以下の内容を解説しました。
人件費の概要
適正とされる人件費の割合
適正な人件費を把握するための指標
人件費の増加を是正する3つの対策
人件費の管理に役立つシフト管理システム
人件費は、経費のなかで多くの割合を占めており、人件費の負担・損失が大きくなると企業の利益にも影響を及ぼします。
業種・企業規模での人件費の平均値と比べて大幅に差がある場合には、生産性を高める取り組みや、売上予算と繁閑状況に応じた人員配置の見直しを行い、人件費の適正化を図ることが重要です。また、シフトに対する人件費の計算や予算に応じた人員配置を効率的に行うためには、シフト管理システムの活用がおすすめです。
『シフオプ』は、売上予算に基づいた人件費の計算やモデルシフトの作成などの機能が備わっており、人件費を踏まえた人員配置を効率的に行えます。スタッフの余剰・不足を可視化して細かな人員調整を行うことで、人件費の増加を防げます。
詳しくは、こちらの資料をご確認ください。