
アルバイト・パートの社会保険加入に必要な条件とは
※2019年5月27日公開の記事に修正を加えています。
社会保険とは、健康保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険・介護保険といった公的保険制度の総称です。企業に雇用されて働く労働者を対象とした健康保険と厚生年金保険の2つを社会保険と呼ぶこともあります。
一定の条件を満たしている場合には、アルバイトやパートとして雇用している従業員にも社会保険へ加入させる義務があることをご存じでしょうか。
アルバイト・パートのなかには、社会保険への加入を希望する人もいるため、人事・労務担当者の方は、社会保険の加入条件について理解しておく必要があります。
今回はアルバイト・パートが加入できる社会保険やその加入条件について解説します。
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アルバイト・パートでも社会保険の加入が必要
日本に住民票がある人は、国民健康保険と国民年金(20歳以上)の加入が義務付けられています。企業に雇用されていて一定の条件を満たす給与所得者(労働者)の場合は、国民健康保険と国民年金に替わって健康保険と厚生年金保険に加入する仕組みです。
近年、より多くの人が手厚い保障を受けられるように、アルバイト・パートにも社会保険の加入対象が拡大されています。適用対象となる労働者・企業の範囲については、後半で詳しく解説します。
出典:政府広報オンライン『パート・アルバイトの皆さんへ社会保険の加入対象が広がっています。』
社会保険の種類と加入条件
従業員を対象とした社会保険には、健康保険・厚生年金保険に加えて、雇用保険、労災保険、介護保険の5つがあります。ここからは、5つの保険の内容と加入条件について解説します。
健康保険・厚生年金保険
民間企業において、以下の条件すべてを満たす場合は健康保険・厚生年金保険の加入が可能です。ただし、従業員が500人以下の民間企業においては、労使間で合意されていることも条件の一つです。
▼健康保険・厚生年金保険への加入要件
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上(残業や通勤手当などは含まれない)
- 1年以上の雇用見込みがある
- 学生ではない(夜間・通信・定時制は対象となる)
国民健康保険は、被保険者が保険料を全額自己負担しますが、健康保険に切り替えることで、従業員と雇用主で保険料の支払いが折半になります。これにより、従業員が負担する保険料が今より安くなることがあります。
また、国民年金から厚生年金保険へと変わる場合も、健康保険と同様に、従業員と雇用主で保険料の支払いを折半することになります。
画像引用元:厚生労働省『保険料と年金額のモデルケース』
厚生年金保険に加入すると、全国民共通の国民年金と比較して、将来受け取れる年金の金額が増えるというメリットがあります。そのため、加入を希望するアルバイト・パートも少なくありません。
出典:厚生労働省『平成28年10月から厚生年金保険・健康保険の加入対象が広がっています!(社会保険の適用拡大)』/政府広報オンライン『パート・アルバイトの皆さんへ社会保険の加入対象が広がっています。』
雇用保険
雇用保険は、労働者が失業した場合の生活の安定化をはじめ、再就職への援助を行うことを目的とした保険制度です。
アルバイト・パートであっても、以下の2つの条件を満たす場合には雇用保険への加入が必要です。
▼雇用保険の適用基準
- 所定労働時間が1週間に20時間以上であること
- 雇用期間の見込みが31日以上あること
企業は、事業の規模や業種にかかわらず、従業員を一人でも雇用している場合には、雇用保険に加入させる義務があります。また、雇入時に31日以上続けて雇用する見込みがなかった場合、31日以上引き続き雇用が見込まれることになった時点から雇用保険が適用されます。
なお、雇用保険に加入するには、事業所の所在地を管轄するハローワーク(公共職業安定所)に企業から届け出を行います。
出典:厚生労働省『雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!』『人を雇うときのルール』
労災保険
労災保険は、アルバイト・パートを含む従業員を一人でも雇用する場合に、雇用主に加入が義務付けられている保険制度です。
従業員が通勤中や業務中にケガ・病気になった場合に、治療費・補償金などの保険給付を行い、傷病等の療養、社会復帰の促進などを行うことを目的としています。
労災保険には、病気やケガなどの事由によってさまざま種類があります。
▼労災保険の主な給付制度
給付制度 |
内容 |
遺族給付 |
亡くなられた従業員の遺族の方に、年金または一時金を給付 |
療養給付 |
病気やケガの療養が必要になった場合に、療養費用を給付 |
休業給付 |
業務災害や傷病の療養のために休業する場合に、休業4日目から給与の一部を給付 |
障害給付 |
業務災害による傷病により障害が残った場合に、年金または一時金を給付 |
介護給付 |
常時介護または随時介護を受けている場合に、介護費用を給付 |
なお、労災保険の保険料については、雇用主が全額負担します。
出典:厚生労働省『労災保険給付等一覧』『労働基準情報:労災補償』『労働保険料の申告・納付』
介護保険
介護保険とは、被保険者が介護を必要とする状態(要支援・要介護状態)になった場合に、介護給付・サービスを利用できる保険制度です。
近年、国内における高齢化が進み、要介護者の増加、介護期間の長期化などが懸念されています。一方、核家族化の進行や介護を行う家族の高齢化などによって、家族への負担増加、老人福祉・老人医療制度の逼迫(ひっぱく)につながっているという問題があります。
介護保険は、こうした介護の負担を社会全体で支えるために設けられました。介護保険の加入対象者は、以下の2つに区分されます。
▼介護保険の加入対象
- 65歳以上の人(第1号被保険者)
- 40歳以上64歳未満の人(第2号被保険者)
健康保険に加入している人(第2号被保険者)については、健康保険と同様に、被保険者と雇用主で保険料を折半して負担します。また、介護保険料は健康保険と一体的に徴収します。
出典:厚生労働省『介護保険制度について(40 歳になられた方へ)』/厚生労働省老健局『介護保険制度の概要』
健康保険と厚生年金保険の注意点
社会保険のうち、健康保険と厚生年金保険には、1週間の所定労働時間や月額賃金などの一定の加入条件があるため、すべての従業員が加入できるわけではありません。
一方、健康保険と厚生年金保険への加入条件を満たしていれば、家族の扶養に入っているアルバイト・パートが扶養を外れて加入することが可能です。ただし、社会保険に加入することで保険料の支払いが発生するため、これまでより給与の手取り額が減るといったケースもあります。
現時点で扶養に入っているアルバイト・パートに関しては、扶養の範囲内に収まるように勤務時間を調整するか、給与・勤務時間を増やして社会保険に加入するかなど、従業員と相談して加入・非加入の意志を確認します。
法改正によって変わる社会保険の加入条件
2020年5月の年金制度改正法の成立によって、一部のアルバイト・パートに対する社会保険の適用範囲が拡大されました。
これにより、多くのアルバイト・パートが社会保険に加入できるようになったほか、医療保険や年金の保障もさらに充実します。
健康保険・厚生年金保険は、これまで従業員数501人以上の企業が加入対象でした。2022年10月からは従業員数101人以上、2024年10月からは従業員数51人以上の企業が加入対象に変更されます。
画像引用元:厚生労働省『従業員数500人以下の事業主のみなさま』
また、従業員数は労使合意に基づいて社会保険への加入が可能でした。しかし、2022年10月からは、一部パート・アルバイトの社会保険の加入が義務へと変わります。
対象企業と従業員数のカウント方法は以下のとおりです。
▼対象企業
|
▼従業員数のカウント方法
A + Bの合計人数でカウントする :フルタイムで働く従業員数 :週労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員数 ※アルバイト、パートを含む |
出典:厚生労働省『年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました』『従業員数500人以下の事業主のみなさま』『社会保険適用拡大ガイドブック』『従業員数500人以下の事業主のみなさまへ』
社会保険適用の拡大に向けた準備の4ステップ
2022年10月から順次、社会保険の加入条件が拡大されることを踏まえて、企業では加入対象者の選定や手続きの準備を進めておく必要があります。
ここからは、社内で必要な準備について4つのステップで解説します。
①加入対象者の把握
社会保険の適用拡大によって、加入対象者の適用条件も緩和されています。
現在未加入の従業員も対象となる可能性があるため、社内の加入対象者を新たに選定し直すとともに、雇用主負担となる保険料も試算しておきます。
加入対象者となるのは、以下の条件をすべて満たすアルバイトやパートとなります。
▼加入対象者
- 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満(残業時間は含まない)
- 月額賃金が8.8万円以上(残業代・賞与・皆勤手当等は含まない)
- 2ヶ月以上の雇用見込み
- 学生ではない(休学中および夜間学生は対象)
出典:厚生労働省『従業員数500人以下の事業主のみなさま』
②社内への周知
新たに加入対象になるアルバイト・パートを把握したあとは、法改正の内容や社会保険の加入について周知します。
▼社内に周知する方法
- 加入対象者に個別でメールを送信する
- 社内のメッセージツールや掲示板で法改正について告知する
出典:厚生労働省『従業員数500人以下の事業主のみなさま』
③説明会や個人面談の実施
社会保険の加入対象となるアルバイト・パートに対して、説明会や個人面談を実施して、加入に関する質問への回答、加入・不加入の意志を確認します。
▼対象者に説明・確認が必要な内容
- 社会保険の加入対象者であること
- 社会保険へ加入するメリット(医療保険の拡充、年金額の増加等)
- 社会保険加入に伴う、雇用形態や労働時間の変更希望
- 社会保険加入後の被保険者の保険負担料・徴収方法
出典:厚生労働省『従業員数500人以下の事業主のみなさま』
④社会保険の加入手続き
新たな加入対象者を選定したあとは、社会保険に加入するために被保険者資格取得届の作成・届出が必要です。
加入手続きの主な流れは次のとおりです。
▼加入手続きの流れ
- 日本年金機構のホームページにて、被保険者資格取得届をダウンロード・印刷する
- 必要事項を記入して申請する
なお、被保険者資格取得届の届出はオンラインでも可能です。従業員数101〜500人の企業は2022年10月5日までに、従業員数51~100人の企業は2024年10月までにオンライン申請を行う必要があります。
出典:厚生労働省『従業員数500人以下の事業主のみなさま』/日本年金機構『【事業主の皆さまへ】新たに健康保険・厚生年金の被保険者となる従業員の手続きに関するご案内』
まとめ
この記事では、アルバイト・パートの社会保険について次の項目で解説しました。
- アルバイト・パートでも社会保険の加入が必要
- 社会保険の種類と加入条件
- 健康保険と厚生年金保険の注意点
- 2022年10月から変更となる社会保険の加入条件
- 社会保険の適用拡大に向けた準備の4ステップ
アルバイト・パートでも、一定の条件を満たす場合には社会保険の加入が必要です。2022年10月からは、500人以下の企業においても適用範囲が拡大され、段階的に社会保険の加入が義務となります。
企業の人事・労務担当者は、新たに加入対象となる従業員に対して、適切に社会保険の加入手続きを行うことが重要です。
また、社会保険の加入にあたって、「扶養範囲内で働きたい」「月に8.8万円以上収入が欲しい」といった従業員の希望を確認することも欠かせません。
一方で、従業員一人ひとりに対して、労働時間の上限や給与の希望額を確認しながらシフト作成を行うことは容易ではありません。煩雑なシフト管理を効率よく行うには、ツールを活用するのも一つの方法です。
シフト管理システム『シフオプ』は、シフト作成時に月ごと・週ごとの労働時間や人件費を可視化できるため、扶養範囲内での出勤時間の調整が行いやすくなります。
特に、多くのアルバイト・パートを雇用している企業は、従業員によって社会保険の加入が必要か否か、加入したいか否かが異なるため、管理が煩雑になりやすいといえます。適切な労務管理を効率よく行うために、シフオプの導入を検討されてみてはいかがでしょうか。
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