
労働条件通知書 兼 雇用契約書とは?記載事項・法改正・作成ポイントを解説
2026年8月12日更新
従業員を新たに雇用する際、使用者(企業側)には賃金や労働時間などの労働条件を明示する法的義務があります。このとき、雇用契約書自体の作成・交付は法律上必須ではありませんが、労使双方の合意内容を正確に記録し、後日のトラブルを防ぐためにも、書面で取り交わすことが望ましいとされています。
そこで実務上よく活用されるのが「労働条件通知書 兼 雇用契約書」です。これは、労働条件の明示と労使双方の合意確認を1つの書類で行えるため、書類作成や管理の効率化はもちろん、労働条件をめぐる認識齟齬の防止に大きく役立ちます。
また、2024年4月の労働基準法施行規則改正により、労働条件通知書の明示事項が追加されました。「就業場所・業務の変更の範囲」や「更新上限の有無」など、新たな記載項目への対応が必須となっています。
本記事では、人事・労務担当者の方に向けて、労働条件通知書 兼 雇用契約書の基本から、2024年改正の変更点、さらに雇用形態別の作成ポイントまでを解説します。
目次[非表示]
労働条件通知書 兼 雇用契約書とは
「労働条件通知書 兼 雇用契約書」とは、労働条件を明示するための「労働条件通知書」と、労使双方がその内容に合意したことを確認する「雇用契約書」の役割を1つにまとめた書類です。
『労働基準法』第15条第1項により、使用者には労働契約の締結時に労働条件を明示する義務があり、賃金や労働時間などの一定事項は原則として書面等で明示しなければなりません。
▼労働基準法 第15条第1項
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
引用元:e-Gov法令検索『労働基準法』
一方、雇用契約書は、提示された労働条件について使用者と労働者の双方が合意したことを証明する書類であり、実は法律上の作成・交付義務はありません。
両者は本来役割が異なる文書ですが、必要な労働条件を記載したうえで末尾に労使双方の署名・押印欄(合意確認欄)を設けることで、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」として1つの書類にまとめることが可能です。これにより、法的な労働条件の明示義務を果たしつつ、合意内容の証明も同時に行うことができます。
出典:e-Gov法令検索『労働基準法』
労働条件通知書と雇用契約書の違い
兼用書類を正しく作成するためには、まず「労働条件通知書」と「雇用契約書」の違いを正確に理解しておくことが重要です。
労働条件通知書は、使用者が労働者に対して一方的に労働条件を「通知(明示)」するための文書であり、労働者の署名や同意を必須とするものではありません。
対して雇用契約書は、提示された労働条件について労使双方が「合意」したことを確認し、記録するために作成される書類です。
実務上は、これらの性質を併せ持つ「労働条件通知書 兼 雇用契約書」という一体型の文書が実務上用いられるケースも多くあります。
比較項目 | 労働条件通知書 | 雇用契約書 |
関連する法令 | 民法 第623条 | |
法律上の義務 | 労働条件の明示義務あり | 書面の作成・交付義務なし |
書類の性質 | 使用者から労働者への一方的な通知 | 労使双方の合意を証明 |
署名・押印 | 法律上は不要(通知のため) | 法律上必須ではないが、合意の証拠として設けるのが一般的 |
罰則 | 明示義務に違反した場合、30万円以下の罰金(労働基準法 第120条) | 作成しないこと自体に罰則はない |
労働条件通知書 兼 雇用契約書を作成するメリット
労働条件通知書と雇用契約書を兼用することで、労使間の認識のずれを防ぎながら、書類作成や管理にかかる負担を軽減できます。主なメリットは、以下の3つです。
①労使間トラブルの防止
労働条件通知書と雇用契約書を兼用することで、雇用条件をめぐる労使間のトラブルを防ぎやすくなります。
労働条件通知書は、使用者が労働者に対して労働条件を明示するための書類です。そのため、労働者が内容を十分に確認しないまま受け取るだけになってしまうケースもあります。
一方、兼用書類に署名欄を設ければ、労働者が賃金や勤務時間、契約期間などの条件を確認し、合意したうえで署名するプロセスを設けられます。「面接で聞いていた条件と違う」「その条件は知らなかった」といった認識のずれを防ぐうえで有効です。
②書類作成の業務効率化
2つの書類を兼用することで、人事・労務担当者の書類作成業務を効率化できます。
労働条件通知書と雇用契約書には、契約期間や就業場所、業務内容、賃金、勤務時間など、共通して記載する項目が多くあります。それぞれを別々に作成すると、同じ内容を二重に入力したり、記載内容に相違がないか確認したりする作業が必要です。
1つの書類にまとめれば、作成や確認だけでなく、印刷、交付、署名依頼、回収にかかる作業も削減できます。書類間の転記ミスや記載内容のずれを防ぎやすくなる点もメリットです。
③書類管理の一元化
労働条件通知書と雇用契約書を兼用すると、従業員ごとの書類管理がシンプルになります。
別々の書類を使用する場合、それぞれを適切に交付・回収し、従業員ごとに保管しなければなりません。保管する書類が増えるほど、一方の書類だけが見つからない、回収状況を把握できないといった管理上の問題も生じやすくなります。
兼用書類であれば、労働条件の通知内容と双方の合意内容を1つの書類で確認できます。紙で保管する場合だけでなく、電子データとして保存する場合も、ファイル数を抑えて整理しやすくなるでしょう。
労働条件通知書 兼 雇用契約書の記載内容
労働条件通知書 兼 雇用契約書に記載する内容は、労働基準法によって定められています。大きく分けて「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」の2種類があります。
絶対的明示事項(必ず明示する事項)
絶対的明示事項は、『労働基準法』第15条第1項、『労働基準法施行規則』第5条によって労働者への明示が義務づけられています。
絶対的明示事項とは、社内制度の有無にかかわらず、労働契約の締結時に必ず明示しなければならない事項です。このうち、昇給に関する事項を除く主要な事項については、原則として書面(または労働者が希望した場合は電子メール等)で明示する必要があります。
▼絶対的明示事項

画像引用元:厚生労働省『労働基準法の基礎知識』
※上図に加え、2024年4月からは、就業場所・業務の変更の範囲や、有期契約労働者に対する更新上限・無期転換に関する明示事項が追加されています。詳しくは後述します。
相対的明示事項(制度がある場合に明示が必要)
相対的明示事項とは、『労働基準法施行規則』第5条において、
相対的明示事項とは、会社に該当する制度や定めがある場合に、労働者へ明示しなければならない事項です。
これらの事項については書面での交付義務はなく、口頭での説明も可能とされています。相対的明示事項に定められている内容は、以下のとおりです。
▼相対的明示事項

画像引用元:厚生労働省『労働基準法の基礎知識』
出典:厚生労働省『労働基準法の基礎知識』
【2024年4月改正】新たに追加された明示事項
2024年4月1日の労働基準法施行規則改正に伴い、明示しなければならない労働条件が追加されました。特に、就業場所や業務の「変更の範囲」を明示することが新たに義務づけられた点は、実務上の重要な変更点です。採用時の勤務地や業務内容だけでなく、将来の異動や配置転換による変更範囲も明示する必要があります。
全労働者が対象|就業場所・業務の変更の範囲
これまで、雇い入れ直後の就業場所や業務の内容は明示が義務づけられていましたが、2024年4月1日以降に締結するすべての労働契約と、有期労働契約の更新時には、将来の配置転換などによって変わり得る「就業場所と業務の変更の範囲」も明示する必要があります。労使間の認識の齟齬を防ぐため、改正前から雇用している労働者についても、労使間の認識齟齬を防ぐ観点から、就業場所・業務の変更の範囲を明示することが望ましいとされています。
「変更の範囲」とは、労働契約の期間中において、将来の見込みも含めて配置転換や在籍型出向先で従事する可能性のある場所・業務のことです。
なお、テレワークを想定している場合は、労働者の自宅やサテライトオフィスなども「雇入れ直後」または「変更の範囲」として明示しなければなりません。
有期契約労働者が対象|更新上限の有無と内容
有期労働契約を締結する場合は、契約更新の上限について、更新上限の有無と、その内容を労働条件として明示する必要があります。
また、契約締結後に新たに更新上限を設ける場合や、すでに定めている更新上限を短縮する場合は、労働者に不利益な変更となる可能性があるため、あらかじめその理由を説明することが義務づけられています。
例えば、契約当初は更新上限を設けていなかったものの、契約更新時に「通算契約期間は4年まで」と更新上限を新たに設定する場合は、その理由を事前に説明したうえで、更新後の労働条件として明示する必要があります。
▼更新上限の変更例
- 新たに更新上限を設ける場合:これまで更新上限を設けていなかった契約について、「契約更新は3回まで」と定める。
- 更新上限を短縮する場合:「通算契約期間は5年まで」を「3年まで」に変更する、または「契約更新は3回まで」を「1回まで」に変更する。
有期契約労働者が対象|無期転換申込機会と転換後の労働条件
同一の使用者との間で有期労働契約が1回以上更新され、通算契約期間が5年を超えた場合、労働者には無期労働契約への転換を申し込める権利(無期転換申込権)が発生します。
2024年4月1日以降は、この無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに、「無期転換を申し込める旨」と「無期転換後の労働条件(就業場所、業務、賃金、労働時間など)」を明示しなければなりません。
例えば、通算契約期間が5年を超える契約更新時には、無期転換を申し込めることと、無期転換後の労働条件を明示する必要があります。また、労働者が無期転換を申し込まずに有期労働契約を更新した場合も、その後の契約更新ごとに同様の明示が必要です。
出典:厚生労働省『2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?』
【2026年10月1日施行】パート・有期雇用労働者の追加明示事項
2026年10月1日からは、パートタイム労働者および有期雇用労働者を雇い入れる際の労働条件明示事項が追加されます。
従来のパートタイム・有期雇用労働法で義務づけられていた「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」の4項目に加え、新たに「通常の労働者との待遇の相違の内容・理由等について、説明を求めることができる旨」を明示することが必要になります。
追加の明示事項は、2026年10月1日以降にパートタイム労働者・有期雇用労働者を雇い入れる場合に適用されます。施行日までに、労働条件通知書や雇用契約書の様式を見直しておきましょう。
出典:厚生労働省『パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります』
雇用形態別の作成ポイント
労働条件通知書 兼 雇用契約書は、従業員の雇用形態によって記載すべき内容や注意点が異なります。それぞれの特性を踏まえた作成ポイントを解説します。
正社員(無期雇用)の場合
正社員は契約期間に定めがないため、契約期間欄には「期間の定めなし」と記載します。
また、2024年4月の法改正により、就業場所や業務の変更の範囲も明示する必要があります。将来的に転勤や配置転換の可能性がある場合は、その範囲を具体的に記載しましょう。
例えば、「会社の定める営業所」「会社の定める業務」と記載する方法があります。変更の範囲が多岐にわたる場合は、別紙で一覧を添付する方法も有効です。
短時間労働者(パート・アルバイト)の場合
パートタイム・有期雇用労働法に基づき、労働基準法上の明示事項に加えて、以下の4項目を文書等で明示する義務があります。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 相談窓口(担当者の部署・氏名・連絡先など)
なお、前述しているとおり、2026年10月1日からは追加の明示事項が適用されるため、最新の法令に沿って対応しましょう。
また、就業場所や業務内容について、将来的な変更がない(限定されている)場合は、変更の範囲に「変更なし」と明記します。
有期雇用労働者(契約社員・有期パートなど)の場合
有期雇用の契約社員などは、契約期間に定めがあるため、契約期間や契約更新に関する事項を明確に記載する必要があります。2024年4月の法改正に伴い、更新上限や無期転換に関する明示事項も追加されているため、記載漏れがないよう注意しましょう。
特に、以下の事項を確認して記載します。
- 契約期間:契約の始期と終期(例:令和X年X月X日~令和Y年Y月Y日)を記載する。
- 契約更新の有無・判断基準:更新の可能性がある場合は、「勤務成績・勤務態度」「会社の経営状況」など、更新を判断する基準を明示する。
- 更新上限:更新上限の有無や内容(例:更新は○回まで、通算契約期間は○年まで)を明示する。
- 無期転換申込機会:無期転換申込権が発生する契約更新時には、無期転換を申し込める旨と、無期転換後の労働条件を明示する。
- 追加の明示事項:パート・アルバイトと同様に、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」を書面などで明示する。
なお、2026年10月1日からは、パート・有期雇用労働者に対する追加の明示事項も適用されるため、契約社員についても最新の法令に沿って対応する必要があります。
出典:厚生労働省『2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?』
電子交付の方法と注意点
労働条件の明示は、原則として書面による交付が必要です。ただし、労働者が希望した場合に限り、FAXや電子メール、SNSメッセージなどの電子的方法による交付も認められています。
近年は、テレワークの普及やペーパーレス化を背景に、PDFファイルなどで労働条件通知書 兼 雇用契約書を交付する企業も増えています。一方で、電子交付を行う際は、次の点に注意が必要です。
労働者の希望を確認する
電子交付は、労働者本人が希望した場合にのみ認められます。事前に本人の意思を個別かつ明示的に確認しましょう。
出力可能な形式で交付する
労働者が必要に応じて印刷・保存できる方法で交付する必要があります。法律上、PDF形式は必須ではありませんが、印刷や保存がしやすいPDFファイルでの交付が推奨されています。
到達を確認する
送信後は、メールやメッセージが労働者に到達したことを確認しておくことが望ましいでしょう。未着のまま手続きが進むと、後のトラブルにつながる可能性があります。
SNS・SMSでの交付は慎重に行う
一部のSNSやSMSは、保存期間や文字数、添付ファイルの送信に制限がある場合があります。労働条件を確実に保存・確認できる方法を選択することが重要です。
出典:厚生労働省『平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります』
よくある質問
Q. 労働条件通知書 兼 雇用契約書に決まった様式はありますか?
A. 法律上、必要な明示事項さえ網羅されていれば、特定の決まったフォーマットを使用する必要はありません。自社の実情に合わせて独自に作成して問題ありません。
厚生労働省のウェブサイトでは、最新の法改正に対応した「モデル労働条件通知書」のテンプレート(Word・PDF形式)が無料で公開されていますので、自社用のひな形を作成・見直す際の参考にするとよいでしょう。
Q. 労働条件通知書 兼 雇用契約書の保管期間はどのくらいですか?
A. 労働条件通知書や雇用契約書は、『労働基準法』第109条において「雇入れに関する重要な書類」に該当するため、労働条件通知書や雇用契約書は、「雇入れに関する書類」として、労働者の退職または死亡の日から5年間保存することとされています。ただし、経過措置により、当分の間は3年間の保存が必要です。
なお、将来の労使トラブルへの対応も考慮し、実務上は5年間保存する運用を検討するとよいでしょう。電子データとしてペーパーレスで保管する場合でも、必要なときにすぐにディスプレイに表示したり、紙に印刷(出力)したりできる状態で保存しておく必要があります。
Q. 労働条件通知書 兼 雇用契約書を交付するタイミングはいつですか?
A. 労働条件は「労働契約を締結する時点」で明示する必要があります。内定時など、実際の入社日より前に労働契約が成立するとみなされる場合は、その契約成立のタイミングで明示し、交付するのが適切です。
また、契約社員などの有期労働契約を更新する場合は、最初の入社時だけでなく、契約更新の都度、新たな契約期間の労働条件を明示・交付する必要があります。
まとめ
この記事では、労働条件通知書 兼 雇用契約書について解説しました。
労働条件通知書 兼 雇用契約書は、労働条件の明示と労使双方の合意確認を1つの書類で行えるため、認識の齟齬やトラブルの防止、書類管理の効率化につながります。
また、2024年4月の法改正では、就業場所・業務の変更の範囲や更新上限、無期転換に関する事項など、新たな明示事項が追加されました。さらに、2026年10月からはパート・有期雇用労働者に関する追加の明示事項も適用されるため、最新の法令に対応した書類への見直しが重要です。
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